
故人が遺した想いを形見として大切にしたいという気持ちは、遺された家族にとって自然な感情です。
特に、故人が生前大切にしていた現金を、その意志を尊重しながら親族間で分かち合いたいと考える方もいらっしゃるでしょう。
しかし、形見分けは単なる感情的な行為に留まらず、礼儀や法的な側面も考慮する必要があります。
どのように進めれば、故人への敬意を払い、受け取る側にも喜ばれ、かつ後々のトラブルや予期せぬ税負担を避けることができるのでしょうか。
ここでは、現金での形見分けを円滑に進めるための具体的な方法と注意点について解説します。
現金で形見分けを行う際には、故人への敬意を表し、受け取る方への配慮を示すために、封筒の表書きを適切に記すことが大切です。
一般的には、仏式であれば「御霊前」や「御仏前」、神式であれば「御榊料(おさかきりょう)」、宗教を問わない場合は「お供え」や「寸志」といった言葉が用いられます。
これらの表書きは、故人を偲ぶ気持ちや、遺された方々への心遣いを伝えるためのものです。
また、現金だけでなく、本来は品物を贈る際の表書きとしても用いられる言葉であり、形見分けとして現金を贈る場合にも、故人への感謝の念や遺族への慰めの気持ちを込めて、これらの言葉を選ぶと良いでしょう。
現金での形見分けにおける金額は、画一的な基準があるわけではなく、故人が遺された相続財産全体の規模や、各相続人の立場、遺言の有無などを総合的に考慮して決定することが肝要です。
例えば、遺産総額が比較的少ない場合でも、故人が特定の品物や現金を大切にしていたのであれば、その価値を考慮して配分することもあるでしょう。
一方で、遺産総額が大きい場合には、形見分けの現金の総額が、相続人全体の取り分に大きく影響しないよう、慎重に金額を設定する必要があります。
各相続人の生活状況や、形見分けとして受け取る現金の意味合いなども踏まえ、全員が納得できるような公平な金額設定を目指すことが、後々の無用な争いを避けるための第一歩となります。

現金での形見分けを進める上で最も重要なことは、相続人となる全員の意向を確認し、その同意を確実に得ることです。
形見分けは、故人の遺志を尊重する行為であると同時に、相続財産の分配という側面も持ち合わせているため、一部の相続人だけで進めてしまうと、後々「なぜ私には知らせがなかったのか」「不公平だ」といったトラブルに発展する可能性があります。
そのため、まずは遺言書の有無を確認し、その内容に沿って進めるか、あるいは遺言がない場合には、相続人同士で集まって話し合いの場を設け、形見分けを行いたい旨とその具体的な方法(誰に何を、どのくらいの価値のものを渡すかなど)について、全員で意思疎通を図り、合意形成を図ることが不可欠です。
可能であれば、話し合った内容を書面に残しておくことで、後々の証拠としても役立ちます。
故人から相続した財産には、一定額を超えると相続税が課税される可能性があります。
この「一定額」とは、相続税の基礎控除額のことを指し、法定相続人の数によって変動します。
例えば、2024年現在、法定相続人が1人の場合の基礎控除額は3,600万円、2人の場合は4,200万円、3人以上の場合は4,800万円です。
形見分けとして渡す現金の総額が、この基礎控除額を超えないように、全体の金額を調整することが、相続税負担を回避するために重要となります。
もし、形見分けの現金の総額が基礎控除額を超える見込みであれば、相続税の申告や納税が必要になるため、税理士などの専門家に相談し、適切な手続きを踏むことを強く推奨します。
形見分けとして渡される現金は、原則として相続財産の一部とみなされ、相続税の対象とはなりますが、直接的な贈与税の対象にはなりません。
しかし、渡し方によっては贈与税が課税されるリスクがあるため注意が必要です。
例えば、相続が発生してから相当な期間が経過した後や、相続財産とは別に、生前贈与のような形で高額な現金を渡した場合などは、税務署から贈与とみなされる可能性があります。
そのため、形見分けの現金を渡す際は、相続手続きの一環として、遺産分割協議が完了した後に行うのが最も適切です。
また、渡す金額についても、あまりに高額にならないよう、相続財産全体のバランスを考慮した範囲に留めることが、贈与税の心配をなくすための賢明な判断と言えるでしょう。

故人の遺志を尊重し、現金での形見分けを親族間で行うことは、故人を偲び、家族の絆を深める大切な機会となります。
しかし、その際には、封筒の表書きといった基本的なマナーを守り、故人への敬意を忘れないことが肝要です。
また、相続人全員の同意を得て、遺産全体のバランスや相続税・贈与税の基礎控除額を考慮しながら、適切な金額と渡し方を慎重に検討する必要があります。
これらの点に留意し、円滑に進めることで、故人も安心して眠ることができ、遺された家族も穏やかな気持ちで故人を偲ぶことができるでしょう。